風の香り
蕾がいつ顔を出していたのかも気づかなかったけれど、風蘭が咲いていました。
風蘭は日本に自生する蘭で、木などにへばりついて生きていく着生植物です。
数センチの小さな葉を一年に数枚伸ばして、この時期になると花をつけます。
2センチほどの花を束にして付け、洋ランとは対を成すような姿ですが、香りの良いその純白の小さな花はすごく上品です。
葉に入る斑や形、花の変わり種、そしてなんと根の先端の色まで鑑賞対象にして品種改良が重ねられた結果、それらの園芸品種は富貴蘭と呼ばれるようになりました。
根を鑑賞対象にするのは世界を探してもこれくらいです。
その歴史は江戸時代まで遡り、特徴のあるものを選び出し、それが発展していくと将軍への献上品にまでなりました。
現在でも愛好家は多く、珍しい種類にはこんな小さな植物の値段とは思えない値が付いています。
数センチの一見地味な花に価値を見出し、ひとつの園芸分野にまで発展させた方々がいらっしゃったということです。
山野草と呼ばれる日本古来の園芸品種は、小さく、地味な色合いの花や葉のものが多いです。
そんな植物に囲まれて育ったぼくらの文化は、やはりそれに近いものになっていると思います。
南国の目が覚めるような鮮やかさの花々、荒野の乾燥や熱に耐え忍ぶサボテン、蒸し暑い熱帯雨林、澄み切った空気の針葉樹林。
地球の植生は本当に多様です。
そのそれぞれの植物に囲まれて人間は文化をはぐくんできました。
どれがいいということはなく、それがそれぞれの地域に住人々の個性となっています。
そして、この極東の島国の潤いに満ちた環境で生まれた、世界でぼくらにしかない個性を大切にしていきたいですね。